サインから読み取れるもの 3

キャナリー・ロウから来た彼に連絡を取って、面接に来てもらった。

丁寧で、感じがよくて、情熱を感じさせる話し方が好きだった。
すぐに仕事があるわけではないけれど、とりあえずトレーニングの意味で、キッチンに入ってみて欲しいと言った。

彼はすでに他のレストランでアルバイトを始めていたので、うちでも短い時間から初めてもらうことができたのがよかった。
徐々に時間を増やしていくことも出来、フルタイムで働くようになったのは、半年後くらいだったと思う。

彼は私たちの想像以上に仕事が出来た。
もともと器用なタイプな彼は、やらせてみると何でもそつなく、速やかにこなした。
料理が大好きで、接客も丁寧で親切だった。

「来てもらってよかったでしょう?」
私はまるで自分の手柄のように、にやにやしながら夫に言ったものだった。

もちろん誰にでも長所と短所、得意なことと苦手なことがある。
これまでに何人もの人を雇ってみて、適材適所を考えながら、それぞれが生き生きと長所や、得意なことを伸ばしながら働ける環境を用意してあげることが私の大きな仕事のひとつなのだと知った。

彼は、自分のビジネスを始めても、きっとうまくやっていけるだろう、と思えるスタッフに成長した。
けれど彼はたまに、私の感情を大きく揺さぶることがあった。
そして私はやっとわかった。
彼が私にとってあんなにも必要な人だと思ったのは、彼が、私自身を映す鏡の役割をするからなのだと。

私は時折、彼の中に、自分が見たくない私自身を見ることがあった。
そのたびに私はいらいらした。
けれど、そのいらいらをじっくり見つめていると、いつしかそれは、彼とは関係のない、私の問題だということがわかってきた。

自分の店を開きたい、
うちで働き始めてから4年近く、いよいよ彼にその準備のときが来て、彼は去った。

人と話すことが大好きな彼とは、よく話もした。
「人に良くしてあげたい」、そんな気持ちが大きかった彼が、この土地で友達を増やしていくのを見るのが楽しかった。

彼の存在のお陰で気づいた私自身のこと、その気づきが、私をまた一歩、確実に前へ押し出してくれたことを 彼が去った日につくづく思った。
4年前に初めて会ったあの日から、彼自身はどんなふうに今の自分を見つめているだろう?
彼のここでの色々な体験が、やはり彼の将来に役立つことを心から祈っている。

そんな私を一部始終見ていた夫は最後に、
「彼はNalcoのために来てくれたんだね」
と言った。
そう、私の感じたあの時の「サイン」は、私の期待以上だった。
[PR]
by S_Nalco | 2010-11-16 18:14 | 気づき
<< フリードリンクを出すお店 サインから読み取れるもの 2 >>