チップというもの。

長女が 誕生日を迎えた末娘のお祝いに、
とサンフランシスコにある日本町に連れて行ってくれた。

末娘はそこで日本のコミックを買いたいのだという。

誕生日が一日違いの仲良しの友達を連れて、
そして他にも2,3の取り巻き(?)を連れて、
楽しい一日となったようだった。

けれど娘の友人のリクエストで 初めて入った回転寿司屋では帰り際に、
「20%のチップを置いてってくださいよ」
と怒鳴られるように言われてがっかりだったと言う。
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アメリカで生まれ育った彼女にしても、
水を出してくれただけの回転寿司は、
寿司のファースト・フードのように思えたのか、
チップを置き忘れたらしい。

その結果、レジのところですごい剣幕での言われようだったらしい。

「チップって、ありがとう、って言う気持ちで渡したいよね」

そう言う長女だけど、
「チップ」目当てに働く人にとっては
「ありがとう」の気持ちは別の次元の話でしかないのかもしれない。
そう思わせるくらい、ここでは「ありがとう」と
店員から聞くことが当たり前なことではない。
(その代わり、Have a nice day のほうを良く使うと思う)。
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チップが常識のアメリカでも、
日本から来た観光客は日本食レストランでは居心地が良すぎるのか、
チップを忘れる人が多いというのは聞いたことがある。

だから、ときたま観光地の日本食レストランの壁に
「チップを置いてください」のサインを貼り出しているのを見ると、
現実をおちゃらけた、滑稽な漫画の世界に来たような気がする。
お客も、店も、ご苦労なことだと思う。
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私の店では、チップのことを口にするのはある時期からご法度にしている。

「あの客はチップが少なかった」
「あんなにしてあげたのに、たったこれだけ」

そんな言葉をダイニングのスタッフから聞いていた頃、
聞いている方がいたたまれなかった。

私自身、日本にはない「チップ」の習慣に慣れないまま、
レストランを開いていた。


普通、ウエイトレスは自分のテーブルからのチップは
全部自分が独り占めできるのが常識となっている。

けれど、うちではチップはすべてひとつのビンに入れて、
あとで皆で分ける、というルールは初めから決めてあった。
もちろん最低賃金で働くダイニングスタッフが
大きな割合で貰えるわけだけど、
キッチンのスタッフも皿洗いの人まで分け前があるというように。

そもそも最低賃金と言っても、
ウエイトレスの時給は800円はあるし、
それで5時間働いただけで、
チップがおよそ1万円くらいあるとしたら、
キッチンで働いている人との時給の差はそれは大きい。

担当の税理士さんに聞けば、
「チップを分けるのは、最近はよくあることよ、だって、フェアーじゃないよね」
と同意は得られる。
それでも、まだまだマイナーな考えではある。


うちの店では「チップは分ける」ことが当たり前なので、
それが嫌な人は働きに来ない。

それでいいと思っている。

そもそも、スタッフ全員の働きがあって、
初めてお客様のトータルな満足がある。
それを自分ひとりの手柄と思うほうがおかしい。

全員でお客様を一緒にもてなしましょう、
そういう雰囲気なので、スタッフ全員、とても仲がいい。
“チーム・ワーク”は店の欠かせないキーワードのひとつ。
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けれど、なかにはチップを分けることに
密かに異議を唱える人もいる。

ならば辞めて、他に行けばいいものだが、
彼女はもう何年もいる。
そしてそんな彼女を私が雇っているのは、
彼女のウエイトレスとしての、
プロフェッショナルな自覚が素晴らしいと思っているから。

彼女は仕事も速ければ、
他の人の助けもするし、
キッチンとの連帯もいい。
ウエイトレスというのは、
「エンターテイメント」と、
この仕事を位置づけて、
どれだけお客様に楽しんでもらえるか、を演出している、と言う。

そんな彼女の心意気が私は好きでもあるし、
だからこそ、チップを分けるのは自分の意ではない、
というアメリカンな説得に力がある。

彼女ほどの人ならどんなレストランでも 
喜んで迎えてもらえるだろうと思うけれど、
ここが好きだから、と働き続けてくれている。
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ところが分けているとはいえ、
一人当たりのウエイトレスのチップの金額はそう悪いものではない。
他のレストランに比べてもそう劣りはしないと思うし、
ウエイトレスの満足度も悪くないのではないかと思う。
働く人で理由なく辞めていく人はいないし、
殆どの人は長く居てくれている。

要するに宇宙は、
私たちが「こう」と決めたルールにもとづいて、
皆が満足できるように取り計らってくれているような気がする。

店がたいてい繁盛しているのは、
私たちがチップを分けるているからではないかと
考えてみることもある。

今、私のスタッフは、
お客様のことを「チップの多少」で見ることはないし、
お客様の満足度を純粋に考えてくれているように思う。

もちろんチップで、お客様がどんなに喜んでくれたかを知る、
バロメーターになることもあるけれど、
極端に少ない場合は、文句を言う代わりに
「何がいけなかったか」
を考える謙虚さを持つスタッフばかりだと自負している。
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でも、チップのことで一番いい思いをしているのは、
実はオーナーである私だと密かに思っている。

何故なら法律で、オーナーは
チップを受け取ることができないからだ。

どんなにお客様に素晴らしいおもてなしをしても、
余分には一銭も受け取ることが出来ない、
ということは即ちその「行い」が
天国の銀行に預けられていることを
私は「日本の心」で知っている。

天国の銀行は現金よりずっといい。
必要なときにはおもわぬ形で助けてくれる。
しかも大きな利子をつけて。

私はそういうことを身を持って知った。
チップなんて目先だけの損なシステムだ。
日本は偉いな。
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by S_Nalco | 2011-10-23 15:26 | ホスピタリティ
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