いつも、いつも。

あれはハロウィンの夜のこと。
その夜の予約をされたお客様が、
前回の来店のときには満足な食事でなかったと
電話口で伝えられた。

前回は息子の誕生日で来たから、
何も悪いことは言わずにいたけれど、
肉の焼き加減など全般において気にいらなかった。
だから、今夜のディナーは無料にして欲しい、ということだった。

こんなお客様からのリクエストは開店以来始めてのこと。

その夜、50歳近いご夫婦が来店されたのを見ると 
私には馴染みのないお客様でハロウィンの日らしく、
ロリーポップキャンディを口に入れて頬を膨らませたまま席に着かれた。

前回彼らを担当したというウエイトレスが、
「あの日はとても機嫌良く帰られたと思ったのに」
とがっかりして言う。

その夜は 
ウエイトレスの中で一番長く働いてくれているSさんが
担当する席に その人たちが座った。
彼女なら大丈夫。
彼女で文句が出るようなら、
それはお客様の問題だわ、そう思った。

食べきれないほどの食事を注文されて、
デザートも召し上がって、
その様子を私はときどき見守りながら、
結局私はそのお客様とはお話しすることもなく時間が過ぎた。

ただ、帰られる時に、
「今日はどうでしたか?」
と声をかけると、
来たときとは違う、
大げさに言うとつきものが落ちたような柔らかいお顔で、
「ありがとう、美味しかったわ」
と言われて帰って行った。

営業が終わって、
一緒にテーブルを片付けながらSさんが言う。

「私ね、ありがとうございます、
って言ったんですよ、あの人たちに。
お店にとって悪いことを言うのって、
なかなかできることじゃないのに、
あえて言ってくれてありがとうございましたって。」
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私はあのお客様が帰られるときの表情を思い出した。
「そうだったんだ」

私は普通、クレームを伝えられたときには、
お客様にそのように言うのが常だった。
「言ってくださってありがとうございます」と、心からそう思う。
でも、今夜だけは、そのことを言うのはとてもはばかられた。言えない自分がいた。

「あなたが私の代わりに、ちゃんと伝えてくれたのね、そのお客様に。」
私はしみじみとした気持ちで
彼女の目を見てそう言った。

言えなかった自分をまだまだだな、と反省する気持ちを上回るほどに 
彼女の在り方が嬉しかった。
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by S_Nalco | 2011-11-13 16:40 | ホスピタリティ
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