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おせっかいな客

土曜日の朝に、
夫とふたりで朝ごはんを食べに、近所のレストランに出かけた。

そこへ前に行ったのは、たしか半年以上も前、
朝ごはんにはロールパンやらデニッシュやら、
いろいろなパンが出てきてそれを楽しんだ覚えがあった。

けれど店のドアを開くと、なにか様子が違う。
メニューをもらってびっくり。
違う店になってる。
しかもメキシカン。
外の看板はまだ前の店の名前になっていたので
気づかなかった。

「先週からうちの店になったんです。」
黒いエプロンはあちこちが白く汚れていたけど、
一生懸命な笑顔が感じよかった。
「開店、おめでとう」
夫がそう声をかけるとウエイトレスはとても嬉しそうだった。

朝からメキシカンは食べたくないな、
と思っていたら、ちゃんとアメリカンな朝食メニューがあったので、
それを頼んだ。

客は私たちの後に来たカップルが他に一組だけだったけれど、
40分たっても食事はこなかった。
でもそこは私たちも心得ている。
開店したての店というのは
何かと込み入っているものだから。

けれど、やっと食事が運ばれて来た時には、
唖然とした。
うちの子供たちだって、
もっと美味しそうに、作るぞと思った。

食べてみて、またびっくり。
ハッシュブラウンのポテトは半分しか焼けてなく、
付け合せのビーンは冷たい。
2枚重ねのホットケーキには、
ほんのちょっとのバターがぐにゃりと
嫌そうにかかっているだけだった。

おまけにコーヒーは「これぞアメリカン!」
と唸らせるくらいに薄い。

しかも、食事と一緒に持ってきたフォークやナイフが汚れていた。

食べ歩き、グルメ、食の多様化が進んで、
人々の口はずいぶんに肥えてきた昨今、
こんな食事をレストランで出されるとは驚きだった。

「これは世にも稀な、体験だよ」
ベジタブル・スクランブル・エッグとは名ばかりの
卵料理をフォークでつつきながら
私は夫と笑い出していた。

テーブルの近くに来たウエイトレスに私は声をかけた。
「あなたがここのオーナー?」
「私のお父さんです」
「あなたは笑顔もとても素敵だし、丁寧だけど、
料理はさんざんだわ。
料理のわりには、値段も高いしね。
この町にはメキシカンレストランがたくさんあるから、
もっと頑張らないとね」

私たちは、重くならないように笑顔を交えてそう伝えた。

彼女は、
「朝食じゃなくってランチやディナーを食べてもらえればよかったんですが」
と言いながらも、
お勘定はずい分ディスカウントされていた。


殆ど食事に手をつけずに私が帰ろうとしたとき、

「食べ物に罪はないよ、
お持ち帰りして、家で料理しなおせばいい」
と夫が言う。
そうしたいのは山々だけど、
それでは相手が混乱してしまう。

「何がいけなかったのか」
お店の人が考えるいいチャンスだから、
このままにしていきましょうと、
店を出た。

頑張ってね、
という気持ちで多すぎるくらいのチップを置いて。

何も言わずに帰ることも出来た。
もう2度と来ることもないかもしれない。

でも、私だったら?

何がいけなかったかを伝えてくれる
お客様にはいつも感謝している。
私たちの店も、
お客様に教えられ、鍛えられて今がある。

だからあえて伝えた。

でもひょっとしたら、
私たちのひとりよがりになっているかもしれない。

おせっかいな客だと思われているかもしれない。

あとは相手の受け取る力しだいだから。
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その後行った、パン屋のやっているカフェでは、
美味しい朝ごはんを堪能した。
「世にも稀な体験」をして来たばかりだったせいか、
ウエイトレスがお皿を運んできたとき、
料理がお皿ごと、
にっこり私に笑いかけてきたと思った。

うちでも一皿一皿、こんなふうに笑っている料理を
いつも、
間違いなく、届けられるようでありたい。
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by S_Nalco | 2011-10-31 14:00 | コミュニティ

チップというもの。

長女が 誕生日を迎えた末娘のお祝いに、
とサンフランシスコにある日本町に連れて行ってくれた。

末娘はそこで日本のコミックを買いたいのだという。

誕生日が一日違いの仲良しの友達を連れて、
そして他にも2,3の取り巻き(?)を連れて、
楽しい一日となったようだった。

けれど娘の友人のリクエストで 初めて入った回転寿司屋では帰り際に、
「20%のチップを置いてってくださいよ」
と怒鳴られるように言われてがっかりだったと言う。
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アメリカで生まれ育った彼女にしても、
水を出してくれただけの回転寿司は、
寿司のファースト・フードのように思えたのか、
チップを置き忘れたらしい。

その結果、レジのところですごい剣幕での言われようだったらしい。

「チップって、ありがとう、って言う気持ちで渡したいよね」

そう言う長女だけど、
「チップ」目当てに働く人にとっては
「ありがとう」の気持ちは別の次元の話でしかないのかもしれない。
そう思わせるくらい、ここでは「ありがとう」と
店員から聞くことが当たり前なことではない。
(その代わり、Have a nice day のほうを良く使うと思う)。
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チップが常識のアメリカでも、
日本から来た観光客は日本食レストランでは居心地が良すぎるのか、
チップを忘れる人が多いというのは聞いたことがある。

だから、ときたま観光地の日本食レストランの壁に
「チップを置いてください」のサインを貼り出しているのを見ると、
現実をおちゃらけた、滑稽な漫画の世界に来たような気がする。
お客も、店も、ご苦労なことだと思う。
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私の店では、チップのことを口にするのはある時期からご法度にしている。

「あの客はチップが少なかった」
「あんなにしてあげたのに、たったこれだけ」

そんな言葉をダイニングのスタッフから聞いていた頃、
聞いている方がいたたまれなかった。

私自身、日本にはない「チップ」の習慣に慣れないまま、
レストランを開いていた。


普通、ウエイトレスは自分のテーブルからのチップは
全部自分が独り占めできるのが常識となっている。

けれど、うちではチップはすべてひとつのビンに入れて、
あとで皆で分ける、というルールは初めから決めてあった。
もちろん最低賃金で働くダイニングスタッフが
大きな割合で貰えるわけだけど、
キッチンのスタッフも皿洗いの人まで分け前があるというように。

そもそも最低賃金と言っても、
ウエイトレスの時給は800円はあるし、
それで5時間働いただけで、
チップがおよそ1万円くらいあるとしたら、
キッチンで働いている人との時給の差はそれは大きい。

担当の税理士さんに聞けば、
「チップを分けるのは、最近はよくあることよ、だって、フェアーじゃないよね」
と同意は得られる。
それでも、まだまだマイナーな考えではある。


うちの店では「チップは分ける」ことが当たり前なので、
それが嫌な人は働きに来ない。

それでいいと思っている。

そもそも、スタッフ全員の働きがあって、
初めてお客様のトータルな満足がある。
それを自分ひとりの手柄と思うほうがおかしい。

全員でお客様を一緒にもてなしましょう、
そういう雰囲気なので、スタッフ全員、とても仲がいい。
“チーム・ワーク”は店の欠かせないキーワードのひとつ。
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けれど、なかにはチップを分けることに
密かに異議を唱える人もいる。

ならば辞めて、他に行けばいいものだが、
彼女はもう何年もいる。
そしてそんな彼女を私が雇っているのは、
彼女のウエイトレスとしての、
プロフェッショナルな自覚が素晴らしいと思っているから。

彼女は仕事も速ければ、
他の人の助けもするし、
キッチンとの連帯もいい。
ウエイトレスというのは、
「エンターテイメント」と、
この仕事を位置づけて、
どれだけお客様に楽しんでもらえるか、を演出している、と言う。

そんな彼女の心意気が私は好きでもあるし、
だからこそ、チップを分けるのは自分の意ではない、
というアメリカンな説得に力がある。

彼女ほどの人ならどんなレストランでも 
喜んで迎えてもらえるだろうと思うけれど、
ここが好きだから、と働き続けてくれている。
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ところが分けているとはいえ、
一人当たりのウエイトレスのチップの金額はそう悪いものではない。
他のレストランに比べてもそう劣りはしないと思うし、
ウエイトレスの満足度も悪くないのではないかと思う。
働く人で理由なく辞めていく人はいないし、
殆どの人は長く居てくれている。

要するに宇宙は、
私たちが「こう」と決めたルールにもとづいて、
皆が満足できるように取り計らってくれているような気がする。

店がたいてい繁盛しているのは、
私たちがチップを分けるているからではないかと
考えてみることもある。

今、私のスタッフは、
お客様のことを「チップの多少」で見ることはないし、
お客様の満足度を純粋に考えてくれているように思う。

もちろんチップで、お客様がどんなに喜んでくれたかを知る、
バロメーターになることもあるけれど、
極端に少ない場合は、文句を言う代わりに
「何がいけなかったか」
を考える謙虚さを持つスタッフばかりだと自負している。
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でも、チップのことで一番いい思いをしているのは、
実はオーナーである私だと密かに思っている。

何故なら法律で、オーナーは
チップを受け取ることができないからだ。

どんなにお客様に素晴らしいおもてなしをしても、
余分には一銭も受け取ることが出来ない、
ということは即ちその「行い」が
天国の銀行に預けられていることを
私は「日本の心」で知っている。

天国の銀行は現金よりずっといい。
必要なときにはおもわぬ形で助けてくれる。
しかも大きな利子をつけて。

私はそういうことを身を持って知った。
チップなんて目先だけの損なシステムだ。
日本は偉いな。
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by S_Nalco | 2011-10-23 15:26 | ホスピタリティ

あったかうどんから見えるもの。

先週の月曜日から
テイクアウトの店でヌードル・バーを再開した。

うどん、そば、ライス・ヌードルと 
チキンか味噌味のダシ。
トッピングを自分でサラダ・バーから選ぶ
セルフ・サービスの形態。

この冬で3年目となるヌードル・バーは
今ではすっかり店の季節メニューとなって定着した。

照り焼きチキンや天ぷらなどのドンブリは温めて食べるけど
冷蔵庫で保存するお寿司は冷たいまま。
だからいつでもあったかいものが食べられるように、と
保温の為の機材を購入して
アメリカ人の好きな“ヌードル”のステーションを作った。

レストランでは、天ぷらそばや、うどんが注文できるけれど、
すぐに食べられて、
好きなものを好きなだけ自分で取ることのできる
カジュアルなスタイルが嬉しいと
ランチにはここで“ファースト・フード“を食べて行く人が多い。

子供たちが来て
食べてくれるのを見るのが個人的には一番嬉しい。

私の子供たちが小さい頃、こんなお店があったらよかったのに、
そう自画自賛している(笑)。

だからMSGなどの添加物や、
着色の入ったものも使っていない、
世のお母さん方に喜んでもらえるような食事を提供するのがうちの方針。

けれど、最近では日本の放射能を話題にする人も当然いて、
「この食材はどこから来ているの?」
という質問をたびたび受ける。

先日は「日本製」ということでラムネを返された。
子供に飲ませるものだから、
ことさら神経質になるのも無理はない。
メディアが流す情報だけでは
心もとないというのももっともだと思う。

 けれど、食事をするでもなく、ふらりと道行く人が店を除いて、
「その後、日本の新しいニュースはないの?」
と心配して尋ねる人もいる。

店で引き続き売り出している、
日本への支援金のためのT-シャツは以前ほどではないけれど、
それでもたまに「売れたよ」とスタッフから聞くと素直に嬉しい。

世の中には毎日のように、
祈らずにはいられないことが世界のどこかで起きている。

実際、多くのことは、
祈ることしかできない。


寒い日の温かな食べ物は、
まるで祈りが叶えられたときの
ほっとした気持ちを連想させる。

子供の笑顔は未来への期待と
大人の義務を思い出させる。

自分のいるこの小さな場所は、
いつも世界と繋がっていると思う。
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by S_Nalco | 2011-10-18 02:35 | 気づき

記念日

私の仕事が済み、
店を出たのが夕方の5時半、少し前。

店の前には、すでにディナー待ちのお客様がちらほら。
その中にお店でよく見かける、親しい顔を見つけた。

今日が結婚42年目の記念日、
予約を取る電話のときに旦那様が
「だからパティオの席を頼むよ」
と言われていたカップル。

二人に「おめでとう!」とハグをしたあとで、
私は長年連れそうカップルに聞く恒例の質問をした。

「幸せな結婚生活の秘訣は?」


「ただ、幸運なめぐり合わせだっただけよ」


白髪の、
普段は、オーダーする彼女の食事についてくる、
ソースや、スパイスにこと細かく指示される奥様が
微笑みながら、こう一言 言ったとき、

ああ、この瞬間のことは
私はぜったい忘れないだろうな、
と思った。

それくらい綺麗で、
謙虚な、
幸せに満ちた笑顔。

こんな人たちに出会えるなんて
ほんとうに私は
それこそ幸運だ。

あんまりにも嬉しかったので、
そのことをフェイスブックの
店のページにもシェアーした。

お客様の記念日を
お祝いするお手伝いができることは楽しいこと、
でも、何よりも、
お客様の嬉しい気持ちがこちらにも伝わってきて、
私たちこそが幸せな気分にさせてもらっている、と。


気がつくと、
私はますますこの仕事が好きになっている。
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町のとある駐車場で見つけた車。
持ち主の誕生日か何か?
こんなふうに現すお祝いの気持ち、いいなあ。
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by S_Nalco | 2011-10-10 13:57 | ホスピタリティ

現代版、マスターの教え

「銀座まるかん」の社長、
斉藤一人さんが 若い弟子に伝授した教えの記録を読んだ。

「斉藤一人の道は開ける」
永松茂久・著
現代書林
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一人さんの愛の溢れる経営・人生哲学と、
それを自分のビジネスに当てはめながら考える著者とのやりとりで、
商売とは無縁でも、
ぜひ読んでみて欲しい一冊。

私自身は、この本を読みながら 
これまでの自分の8年間を省みて、
本当にその通りだった、と思うことや、
そうだったのか、と気張っていた肩の荷が下りる話、
そして読後、益々明るく 軽い気持ちになった。

「ひとつ、笑顔、
ふたつ、うなずき、
みっつめ、ハッピーな言葉、
この3つさえあれば大丈夫なんだよ。」

一人さんに会うために、九州から勢い勇んで上京し、
小難しい成功のテクニックや秘密を期待していた著者は、
はじめの一人さんとのレクチャーで、
この3つを聞き、がっかりしてしまう。
(日本一の実業家を目の前にして!笑)

素直に人の話を聞く、
「指導される力」、というところから始まった
一人さんの末っ子弟子の著者も
本書の後半あたりでは、
一人さんからの
「天はじっと見ているよ、これは本当だよ」
の言葉に、
「忘れません」
と即答する。



私にもメンターと呼ぶ人がいる。
彼女は自身の仕事を引退したあと、
乞われて日本でも有名な服飾メーカーのCEOを
数年した経験を持つ人だった。
(どうしてこんな人が私の住む小さな町に!?)

彼女から私が教わっていることも、特別なことではない。
小さなことをおろそかにせず、そこにフォーカスしていくこと。
当たり前のことをきっちりやっていくこと。

この考えは自分のビジネスに当てはまらない、
などと
せっかく教えてもらっても、
彼女のシンプルかつ堅実なアイデアに
それこそこの著者と同じで
「成功のテクニック」を聞きたいと期待していた私は思ったものだった。

けれど実際、彼女の言うポイントをしっかり抑えていくうちに、
自分たちに必要だったのはこれだったんだ、とわかった。


巻末の「道は開けるノート」は盛りだくさんで、とても親切。
「学ぶときはいったん自分の「我」を抜いて素直に聞く。
 これを「指導される力」という」
「結局のところ、男は女に育てられる」
「出会いは遠くでなくて今、目の前にある」
「誰かに喜んでもらったとき、人は自分の居場所を見つけることができる」
「楽しく機嫌よくしているとなぜか必ずいい方向へ向かっていく」


具体例満載のこの本を何度も読み返せば、
幸せな人生へのメンタリティをしっかり取り込むことができる。
もちろん、本人に「指導される力」があれば、の前提で。
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by S_Nalco | 2011-10-03 08:32 |