数年前、私はジョン・スタインベックの本ばかり読んでいたことがあった。
レストランの仕事を始めて、私はビジネス本以外の本を読むことを止めた。 店を開いて3年が過ぎた頃、店も軌道に乗って、 まとまった自分の時間がとれたときにやっと、 大好きだった小説を読むことを 自分にさせてあげることにした。 それまでの私は、最近の作家による小説ばかり読んでいたというのに、 その時に手にとったのが、何故かスタインベックだった。 短編の「菊」を初め日本語で読んで、びっくりした。 今度は英語で読んだ。 あんまり気に入ったので、英語の文章を自分で書き写したりもした。 長編の「エデンの東」、「怒りの葡萄」も含めて次々に読んだ。 この気骨で、偉大な作家のことを知りたくて、南カリフォルニアにある彼の資料館に行く日を考え、 彼の言葉を引用したブックマークや、マグカップを資料館のギフトショップから取り寄せたり、 そんなスタインベックな日々を過ごしていたある日。 私は自分の机の上に一枚の履歴書を見つけた。 そこにはスタインベックの故郷である南カリフォルニアの地名が 履歴書の持ち主の職歴欄の住所として、書いてあった。 しかも、私が ずっと読みたいと思ってはいても、日本語では手に入れることのできなかった、 「キャナリー・ロウ」という彼の小説、 その小説にちなんでつけられた同名の会社のレストランで働いていたことが記されていた。 私はすぐにその履歴書をもって、夫に詰め寄った。 「この人と、もう面接したの?」 希望はキッチンだったので、ダイニング担当の私ではなく、夫が彼の担当になるはずだった。 けれど、夫は 「してないよ、ちょっと話をしたけどね。いい感じの若い人だったよ。でも、今、キッチンは人が足りているから、募集はしていないんだ、と断ったんだ。」 私は言った。 「お願い、彼を雇って。彼はキャナリー・ロウから来てるの!」 そう言われても、スタインベックにもキャナリー・ロウにも興味がないどころか、キャナリー・ロウが何かも知らない夫、いったい妻は何を言い出したのかとびっくりしただろう。 けれど、これほど分かり易い「サイン」があるだろうか。 私が当時、興味を持っていたことに関係があり、 しかも手に入れたくて、入れられなかった本の題名の場所から来ている人。 それとも私は、物事をこじつけ過ぎているのだろうか? 「私が話していい? この人、ぜったいうちで働くことになると思うから」 そう言って、履歴書を自分のファイルに綴じ込み、彼に電話をしたのだった。
by s_nalco
| 2010-11-15 18:18
| 気づき
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北カリフォルニアでのお気楽ヒッピー暮らしから、2003年、広島風お好み焼きとおスシをメインにした日本食レストランを開きました。3年後には店のお客様10組から支援を受けて、店の建物を購入、テイク・アウトの店をさらにオープン。町角の小さな「お好み焼き屋」をと思っていたのが、現在店はスタッフ30人のファミリーに。
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