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お客の嫌がることをしない。

「お客の嫌がることをしない」
という変な目次を 本の中に見つけた。

いったいお客に、どんな嫌がらせをするというのだろう?

その本とは、
「ドラッカーの実践経営哲学」PHPビジネス新書 /望月 護 著

「とにかく2代目は先代とは変わったことをやりたがるが、
お客さんは変わったことを望んでいるわけではない」
そう、ある旅館の2代目に、旅行会社の人が言った。
アイデアマンの2代目は、
以来、新しいアイデアを思いついたときには、
すぐに実行せずに、
その言葉を肝に銘じている。
いかに卓抜したアイデアでも、
お客の嫌がることは意味がないからである。


読んでみて、納得がいった。
私にもそんな、
「お客の嫌がること」をやったことがあった、
と思い出した。

世の中に不景気の雰囲気が浸透し始めた2008年。

8月の終わりから、ランチの売上がずいぶん下がった。
例年、その時期にはないことだった。

ディナーにはお金は払っても、
ランチを節約することで調整を計るということなのだろうか。

それで、これからは、
お客様のニーズというのは、
「安くて美味しい」
ことに絞られていくのだと考えた。
それほど、ランチの売上が当時減ったのだ。

そして、そんな不景気風が吹いているのは、
見渡すと、どこの店も同じだった。

それで、私達は丼ぶりもので、
安くできるメニューをいくつも作った。

それらの殆どが、テイクアウト店の商品と連動していて
テイクアウトで買ったフードでも、
レストランにも持って来て食べられるようにした。
というのも、
私たちはそのメニューのスタートの日から、
レストランのランチを、
「セルフサービスの形態」
に 変えることに決めたのだった。

それに、テイクアウトの店は、
変わらずに繁盛していて席が足らなかった。
レストランはサービスを受けることによって、
15パーセントから18パーセントのTIPを任意で払うことが普通。
それもお客様には負担が大きいと思った。

美味しい、安い、早い、
それを軸に レストランのランチを変えていくことが、
お客様のニーズにも叶っていると考えたのが、
それから当分続くと予想された 不景気への対策だった。

店を開いてから5年目、
初めて売上が下がったという事実もあったけれど、
5年間順調に成長してきたというおごりもあったのだと、振り返る。

11月の、オバマ大統領を選出した選挙のあった日に、
レストランのセルフサービスと新メニューが始まった。

けれど、セルフサービスの体制はたった一日、
その日限りで幻となった。
というのも、常連のお客様が帰り際に、

「私は料理だけでなくて、このお店のサービスが好きなのよ」

と 言われたことだった。
そして何も言われなくとも、
たいていの常連さんが、そう思って帰られたのも伝わってきた。

けれど、何かが変わるときというのは、
たいていこういうものだ、とも言える。
確実に何パーセントのお客様の足は遠のくかもしれない。
けれど、そのスタイルを望む新しいお客様が現れる。
そして数カ月後には、
このセルフサービスがすっかり定着した店になっているかもしれなかった。

一日だけで辞めたのは、
このスタイルはうちの店のやることではない、
ということがすぐにわかったからだった。
テイクアウトの店ではそうでも、
レストランで、自分で飲み物や、食べ物を運んだりするお客様の姿を見るのは、 
私が嫌だと、その時に思った。

実際にこの変化の日を迎える前に、
スタッフから疑問の声もあった。
ロイヤルなお客様が多いのに、
この大きな変化が受け入れられるのかどうか、ということについて。

それでも耳を傾けなかったのは、
結局のところ新しいことを試してみたい、
という好奇心が大きかったのもある。

けれど、後日、松下幸之助さんの本の中で、
「衆知を集める」
ということを書かれていたのを読んで、おおいに反省した。

「誤りなく事を進めていくためには、
できるかぎり人の意見を聞かなくてはいけない。
一人の知恵というものは、所詮は衆知に及ばないのである。
~中略~
それに対して、人の意見に耳を傾けて、
衆知を求めつつやっていこうとする人は、
それだけあやまちをおかすことも少ないし、
そういう人に対しては皆もどんどん意見を言い、
また信頼も寄せるようになってくる」。

以来、私たちも 変化を起こすことには慎重になった。

お客様が何を求めて来て下さっているのか、
その衆知を集める、ということ、
そして
セルフサービスの選択は うちのレストランにはない、
とはっきりわかっただけでも、

大きな収穫の秋だった。
by s_nalco | 2010-12-22 18:20 |
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